高性能電解質材料におけるプロトン導入反応の活性サイトを世界初解明~中温で動作する個体酸化物形燃料電池の開発を加速~

高性能電解質材料におけるプロトン導入反応の活性サイトを世界初解明 ~中温で動作する個体酸化物形燃料電池の開発を加速~
(プレスリリース)

2023年3月15日

概要

 九州大学エネルギー研究教育機構(Q-PIT)および大学院工学府材料物性工学専攻の星野健太博士(研究当時)、兵頭潤次特任助教、山本健太郎特任助教(研究当時)、山崎仁丈教授の研究グループと山形大学学術研究院の笠松秀輔准教授は、九州シンクロトロン光研究センターの瀬戸山寛之博士およびあいちシンクロトロン光センターの岡島敏浩副所長らと共同で、400℃動作固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電解質として期待されているプロトン(H+)伝導性酸化物において、プロトン導入反応が起きる局所構造(活性サイト)を明らかにしました。これは、実験とデータ科学、計算科学を融合することにより、世界で初めて得られた研究成果です。本研究で得た知⾒をもとに、局所構造の最適化を基盤とした新たな材料設計戦略を立てることで、プロトン伝導性電解質や中温動作固体酸化物形燃料電池の開発が大幅に加速されることが期待されます。
 アクセプター置換したペロブスカイト酸化物は、水蒸気を取り込み材料中にプロトンを導⼊することで、高いプロトン伝導性を⽰すことが知られています。水和反応はプロトン伝導発現の起源となる反応であるため、水和反応を活性化する局所構造の同定は、1981 年にプロトン伝導体が発⾒されてからこれまで数々の研究者が挑戦してきた難問ですが、局所構造を実験的にプローブできるX 線吸収分光法や固体核磁気共鳴法(NMR)の適用が室温環境に限定されていたため、今日まで未解明のままでした。
 本研究グループは、ペロブスカイト酸化物の中でも既報の中で最高レベルのプロトン伝導性と化学的安定性を兼ね備えたSc 置換ジルコン酸バリウムに着目し、放射光を用いたその場水和実験、スーパーコンピュータと機械学習を活用した⼤規模シミュレーションおよび精密熱重量分析を組み合わせることにより、水和反応を活性化する材料中の局所構造を多角的に調査しました。その結果、スカンジウム(Sc)とジルコニウム(Zr)および⼆つのSc に挟まれた酸素欠損欠陥が水和反応の局所活性サイトであることを特定し、その温度依存性を明らかにすることに成功しました。 本研究成果は、2023年3月14日に米国化学会の国際学術誌「Chemistry of Materials」のオンライン速報版で公開されました。


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